ベトナムの2月の鉱工業生産指数は前月比で8.4%増、前年同月比で23.7%増と絶好調だ。インフレ懸念が強まったため、ベトナム国家銀行(中央銀行)は1月下旬から2月半ばにかけて売りオペを実施し、市中から資金を吸収したほどだ。
対する中国は、2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が35.7と、統計を取り始めた2005年以降で最低を記録。中国人民銀行は企業破綻を防ぐため、市場に資金を大量に供給し続けている。
ベトナムに生産拠点を置く外資系製造業は中国からの部品調達が多く、中国の生産停止の影響を受けてはいる。だが、ベトナム製造業はスマートフォンが前年同月比38.8%増、圧延鋼材が39.7%増、石炭が46.2%増などと、中国が沈んだ分をしっかり捉え、浮上している。中国からベトナムへの緊急の生産品の移管や、中国以外からの部品・原料調達ルートの確保で対応しているためだ。
背景には、ベトナムは中国・武漢での感染拡大の初期から、中国からの入国者を制限するなど思い切った水際作戦をとっていたことがある。
筆者は出張で2月12日にホーチミンに到着したが、空港職員からタクシー運転手、ホテルの従業員まで全員がマスクを着け、飲食店では店員が来店客の手の平にアルコール消毒剤をかけるという、かつてない光景が展開されており、驚かされた。
2月上旬には韓国・大邱からダナンに着いた韓国人旅客に隔離措置を求め、拒否した旅客がそのまま韓国に舞い戻ったり、3月初めに中部国際空港からホーチミンに到着したベトナム航空の便の機材が、その直前のフライトで日本人感染者を搭乗させていたことがわかるやいなや、乗客・乗員合計85人を隔離するなど漏れのない対応だ。
3月6日に再び日本からホーチミンに入った時も、空港の警戒ぶりは続いていた。その結果、ベトナムの感染者数は3月8日時点でもわずか30人にとどまっている。
感染症を治療する医療体制が十分ではないベトナムでは、水際対策こそ「最初で最後の防波堤」という意識があり、厳しい対応を官民が取っている。
それとともにベトナムのなかで暗黙の了解となっているのは、今回の非常事態こそ「中国、韓国からの工場移転に弾みをつけ、成長を加速するチャンス」という認識である。
すでにベトナムは、2009年に北部バクニン省で稼働を始めたサムスン電子のスマートフォン工場が同社のスマホの58%(2019年)をつくる最大の拠点となり、ベトナムの輸出の24%(同)を占めるまで拡大しているが、今回、サムスンの韓国・亀尾のスマホ工場が感染拡大で操業停止となったことで、ハイエンド機種の一部もベトナムに移転される。
電子・電機産業を牽引車とするベトナム経済の成長が、新型コロナ感染拡大のなかで一段と明確になってきているのだ。
さらに米中対立の激化で、米国の追加関税を逃れるため中国からベトナムへの工場移転が勢いを増している。1月のベトナムへの外資の直接投資認可額は前年同月比2.8倍の53億2957万ドル(約5479億円)に膨れあがった。
べトナムは「世界の工場」の一角として存在感をますます拡大しており、新型コロナ感染はベトナムにとって、むしろ追い風になっている。
情報源: ハノイ日本語ガイド・通訳の集め:
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